読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

映画『ニーチェの馬』

ひと月くらい前に、『ニーチェの馬』という映画を見ました。これがかなりパンチの効いた映画でした。 見た場所は、横浜のジャック&べティ。

土曜日なのに、ホールには客は数人・・・ 老夫婦、世捨て人風のじいさん、もう一人の世捨て人風のじいさん、そしてわたくし(プチ世捨て人)・・・

これはヤバイと本能で感じたわたくしは、顔を伏せ、暗転するまでホールから逃げ出したい思いを必死で堪えました。

映画は、じいさんを乗せた荷車を引く馬の映像から始まります。

これが5分以上ワンカットで延々と続きます。 BGMは弦楽器の鬱になりそうな単調な重低音。映像はモノクロ。会話なし。

じいさん達が延々とじいさんの映像を見つめる。そんな、ファンタジーに近い不思議な場所に居合わせることができました。 このまま居続けたら、この人たちと一緒に黄泉の国に行ってしまうのでは。 わたくしは不安に怯えながら見続けました。

この映画、単調なシーンがやたら続くのですが、映像がめちゃめちゃ美しいので、飽きずに観ることができます。どの一瞬を切り取っても、額縁に入れて飾れるレベルの美しさ。絵画が動いてる感じ。

そんな感じの映像をボーッとしばらく眺めていると、馬とじいさんが自宅に到着します。家いるのは娘らしき人のみ。

家に入るとじいさんは着替えをし、娘はじゃがいも2個を丸茹で。 茹で出来上がると2人で1個づつじゃがいもを食べます。 そして暖炉を消して就寝。 朝起きると暖炉に火をつけ、井戸に水を汲みに行き、お湯を沸かし、じゃがいもを茹で、じゃがいもを食べ、酒らしきものを小さいコップに入れ、一気に飲み干し、家を出て馬を馬小屋から出し、仕事へ。

これが、このじいさんの1日のサイクル。

ところが、風があまりに強くて、馬が馬小屋からでない。 どうしても出ないので、じいさんは仕事へ出るのを諦めて、家へ戻ります。

この風の映像がスゴいです。 見てるだけで口のなかに枯葉や砂が入ってくる錯覚を覚えます。 モノクロのせいもあり、とてもパサパサした、ものすごく質感のある感じになってます。

これがこの映画の2日目なのですが、7日目に「世界の終わり」がやってきます。

風はどんどんと強くなり、あんなことやこんなことで、どんどんと生活環境が崩れていく中、このじいさんは、淡々と今までの生活サイクルをつづけようとします。 最終的には、生のじゃがいもを食べようとして、食べられずにすべてが停止するのですが、これが超泣ける名シーンです。

食事を常にじゃがいも1個で単純化して表現していたり、同じ行動が繰り返されるところなど、ミニマルミュージックの構造にかなり近いと感じました。

で、タイトルに「ニーチェ」と付いているので、このサイクルは永遠回帰を表現しているのだと思います。 じいさんは、同じ毎日の繰り返しを常に「イエス」と言い続けるのですが、最後に「イエス」を言える明日も来なくなってしまうという。

監督のタル・ベーラは、これを最後に映画は作らないそうで、その理由とこの映画の内容は、思いっきりリンクしてるはずです。 話の途中に、ほほぅと思える部分がいくつも出てきます。

映像はものすごく美しいし、構成もすごい。傑作だとは思うのですが、なかなかもう一回観ようとは思えない、ヘビーな映画でした。

ニーチェの馬 [DVD]

ニーチェの馬 [DVD]


映画『ニーチェの馬』予告編

© 2009-2017 Osajiru All Rights Reserved.