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『老松堂日本行録』に書かれた日本

老松堂日本行録』という本がある。
西暦1400年前後に、李氏朝鮮が宋希環という人を日本に使わした。この人がソウルを出てから戻ってくるまでの日記をまとめたものだ。

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外国から見たこの頃の日本の様子がよくわかって、メチョメチョ面白い。

今回は、この本に書かれた内容について書いてみようと思う。

この頃の日本と李氏朝鮮の関係

西暦1400年頃、李氏朝鮮から見た日本についての一番の関心事は、倭寇対策だった。
李氏朝鮮自体、倭寇退治で李成桂が名を上げられたおかげで建てられた国だ。

宋希環が使節として日本に行く直前、明と李氏朝鮮が共同して、倭寇の根拠地の一つであった対馬に攻め込んだ。
対馬は日本領なので、日本はこれを日本への侵攻と捉え、次は本土に攻め込んでくるのではないかと、警戒心でイッパイだった。
そんな中、友好関係を求めて日本に使わされるという、泣きそうな役目なのだ。

以下、この本の中で興味深かった部分。

対馬で海賊の奴隷になっていた唐の僧侶

一倭あり、小舟に乗り魚を捉う。我が船を見て来り魚を売る。余、舟中を見るに、一僧跪きて食を乞う。余、食を給してこれに問う。僧言う、「我れは是れ江南台州の小旗なり。去々年虜せられて此に来り、削髪して奴となる。辛苦に勝えず。官人に随いて去らんことを願う」と。燦然として泣下る。倭曰く、「米給わらば則ち吾れまさに此の僧を売るべし。官人買うや否や」と。

明の軍隊の小隊長あたりの男が、倭寇に捕まって対馬で漁をしていた男の奴隷になっていた。
奴隷は食い物くれぇ帰りてぇと泣きわめいた。
奴隷の持ち主だった漁師は、いやいやオレに食い物くれ。この奴隷売ってやるからと言ってきたというような内容だ。

もう腹減りまくりの中、金持ってそうなおっさんがプカプカ漂ってきたのだ。もうタカる以外ない。こっちは腹が減っているのだ。

中国人と朝鮮人と日本人が入り乱れてのバトルトーク。
この辺りに住んでいる人達は二カ国語三ヶ国語上等な感じだったのだろう。

壱岐

是の日平明、干沙毛梁に向う。三小船ありて梁口より我れに向い来る。疾きこと箭の如し。衆曰く、「此れ海賊なり」と。鼓を撃ち旗を張り甲を被りて立つ。船来る。これに問えば乃ち陳吉久送る所の我れを迎うる船なり。梁口に両水相撃つ処あり、崔回礼曾て沈没せし地なり。船皆此を過ぐるを以って難と為す。其の三船は我が船を牽きて此の険を過ぎ、事なく梁に入らしむ。船を泊して後、孔達と与に言う、「吾れら生を得たり」と。

壱岐の勝本港に向かっている途中、もの凄い速さで船が寄ってきた。
船員は「やっべ、海賊だ」と言いながら戦闘態勢を取った。が、結局壱岐の迎えの船だった。
このあたりの海流は厳しく、前の朝鮮からの使いは、ここで沈没して死んじゃったので、今回はそういうことが無いように安全なルートを通れるように案内の船を出したということだ。
陸に上がって「オレ生きてる」と泣きまくった。
という内容だ。

正式の国の使節が、こんなにビクビクしながら命がけで移動していたのだ。
もう今のソマリアの海賊のような感じだったのだろう。

博多へ

一岐島より行船して朴加大(はかた)の外面四五里に至る。望見するに一小船向い来ること箭の如し。更にこれを望むに、人皆甲を被りて来る。衆曰く、「此れ海賊なり」と。衆皆甲を被り旗を張り鼓を鳴らす。予もまた甲を被る。其の船近づき来る。更にこれを示るに、乃ち亮睨先に帰きて送る所の、我れを迎うる船なり。人皆これを喜ぶ。其の船もまた海賊を畏れ、戦具を備えて来るなり。

ここでも迎えの船を勘違い。迎えの船も海賊を恐れて武装して来たという、超厳戒態勢。

基本的に室町幕府は、国の隅々まで統制をできていない。
地方の秩序は、その地方のボスにおまかせ。そして、そのボス自体が海賊の親玉だったりする状態なのだ。

特に博多の近くには松浦党という大海賊の根拠地がある。
松浦党は、元寇では敵の船に小船で奇襲をかけまくって大活躍した記録があり、この後戦国大名に成長して、最終的に平戸藩藩主として明治時代まで生き延びた。

この後もこんな感じで、海賊にビクビクしながら瀬戸内海を渡っていく。

京都

何だかんだで京都に着き、室町幕府に会見に行くものの、最初に書いた事情で外交交渉に難航した。
最終的には何とか目的を果たすことができ、京都に繰り出す。

以下、その時の記録。

日本の俗、女は男に倍す。故に路店至れば遊女半ばにおよぶ。其の淫風大いに行われ、店女行路の人を見れば、則ち路に出でて宿を請い、請えども得ざれば則ち衣を執りて店に入らしむ。その銭を受くれば則ち昼と雖も従う。蓋し其の州々村々は皆海に辺し江に縁う。其の江海の気が孕むが故に、其の生女頗る姿色あり。

ヘヴン。これはヘヴン。キッツイ仕事の後に束の間のヘヴンを満喫する宋希環。

風俗行ったことまで記録を残す、律儀な男。
帰国した後、嫁に見られてキツく叱られたことだろう。

帰国

そして、また海賊にビクビクしながら帰っていくのである。

とにかく書ききれないほど興味深い記載がいっぱい出てくる本で、オススメなのです。



参考

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